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第1回 超長期住宅先導的モデル事業紹介

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民家架構の300年域内継承をめざした住宅再生

仙台地方伝統建築技術研究会
〒981-8551
宮城県仙台市青葉区国見6-45-1
東北文化学園大学大沼研究室内

●基本コンセプトについて

 地方には、超長期住宅の最大の模範=民家がまだ残存している。これらを地域内で適切に継承することは、住宅の社会資産化に直接寄与すると同時に、長期にわたり住み継ぐ我が国本来の住文化の復興にも貢献できる。
 他方、近年、民家再生事業が社会的に認知され、古材を国内外で流通させる向きもあるが、環境負荷の観点からも過度に遠距離の移築再生は望ましくない。
 つまり、地域遺産ともいうべき民家・古材は「域内で継承する」のが理想であり、コストダウンも含め、その具現化に向けて実践的検討をすすめる必要がある。
 本提案は、岩手県南・旧仙台領の一関市大東町にて不要となった江戸期の古民家(築200年は降らない)を解体して、同じ領域内である胆沢郡金ケ崎町へと移築再生し、次の100年を目指して超長期住宅を実現化しようとするものである。
 建築確認申請上は新築扱いとなるものの、その基本思想は「架構の域内継承」による「文化継承型現代住宅の再生」にあるので、改修部門での応募が望ましいと考えた。
 ちなみに、移築先の岩手県金ケ崎町には、旧仙台領の小城下町・城内諏訪小路伝統的検討物群保存地区があり、文化遺産の継承に関する意識が高い。研究者、設計者、行政職、建設業者らで構成される応募者らはすでに10年来、仙台と同町を中心に、住環境の持続性と文化継承に関する情報交換を深めてきた経緯がある。
 とくに昨年度は、職人技術の継承をも課題に含めた「仙台地方伝統建築技術研究会」を立ち上げ、結果的に当事業の準備的考察が整っていたという事情がある。

●先導的な提案の内容について

本事業の準備段階にあたる
2004年の解体・茅降ろしワークショップ
 再生する民家架構は、昭和の民家緊急調査にて佐藤巧東北大名誉教授らが明らかにした「岩手の古民家」に掲載の古家に酷似する煙草農家で、2004年3月の調査時には、すでに解体・建て替えが決定していた (現地再生の道は断たれていた)。
 そこで、旧所有者のご好意により古材を譲り受けることとなった応募者らが復元考察をすすめていくと、現状は建坪約74坪と大規模であったが、腐食のすすんだ孫下屋なる三重目の構造を取払えば、当初の素朴な50坪強の架構は再生・再利用に活かせること、煙草乾燥のため梁高が高く、上屋高のなかに2階部分を挿入できる可能性がある (現代住宅に再生しやすい) ことなどが分かってきた。
 そこで移築再生のための事業企画を行い、茅降ろしなどは学生チームを含めた共同作業を展開し、架構の継承に重点をおいた解体調査を遂行した。
 一連の経過は地元紙でも採り上げられたが、その際、解体前の民家の特徴や古材リストを作成する「保存再生対策調査」、歴史文化的価値を評価する「経年評価 (血統書) 作成」、再生可能な部位・部材を特定し釘金物を除去する「部位部材整理」、一連の事業・作業にかかる環境負荷を検討する「環境負荷試算研究」などを企画、その一部は完遂した。

●今後の予定について

 以上の経過から、本提案事業では、「かけがえのない地域遺産住宅」を「将来に渡って使い続ける社会資産住宅」に具現化する、すなわち「域内でスムーズに継承するためのプログラム」を、実例をもとに構築・検証することを目的とする。
 ここでの一つの価値規範は、応募者の継続研究課題でもある「経年価値―時間とともに深まる愛着や風合い美など」である。実際、本事業の施主とは、いわゆる民家の「血統書」を解体調査報告書に掲載し、これを公開したことがきっかけで出会ったが、既存の地域遺産住宅を十分に調査・評価する業務は、超長期住宅の設計監理業務に位置づけられる必要があると考えている。
 また、「架構の再生」をうたうならば、古材を単体個別の材料としてみるのではなく、木組ユニットの構成部位としてみることが文化遺産の継承につながる。この観点から当事業では、旧架構を可能な範囲で部分改造したものをスケルトンにみたて、インフィルのプランニングを進めた。
 他方、文化財保存修復事業ではなく、一般ユーザーに供するための構造安全や性能確保が担保される必要があり、古い木組みを主役としつつ現代木構法で補強するなど、総合的な投資バランスを心がけている。
 さらには、上記伝建地区に近いため、当該地区の修景住宅にも知見を与えられる設計技法を探求したいと考えている。具体的には、木造架構の補強法、石基礎など自然材料の現代的使用法、基礎土間コンクリートに地元の土の色を再現するアースカラーのコーディネーションなど、風土調和デザインの実験的検討を行う予定である。
 以上、このような国策・補助事業の創設以前から、応募者の社会的意義への確信だけを動機に暗中模索ですすめてきた経過を考えると、今回の採択は喜びに耐えないものがある。感謝の念を胸に、施主様、そして当事業をはじめとする協力者に喜んでいただけるよう、尽力したい。
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