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第1回 超長期住宅先導的モデル事業紹介

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築60年民家の耐震・省エネ型移築工事

豊田設計事務所
〒972-8318
福島県いわき市常磐関船町杭田82
C'sレジデンスII 102

●基本コンセプトについて

 本計画は築60年の民家を隣接する土地に曳屋により移築するものである。敷地は茨城県北部の静かな農村集落に位置し、田園風景が広がる静かな景観となっている。街道より一段上がっている敷地のため夏季は清々しい風が常に流れ、街道との間にあるケヤキの森が騒音を和らげるため、集落の風景はさらに静かで落ち着いたものと感じられる。集落内には現役で使われている古い住宅が多数残されてあるが、最近建替えられた住宅の多くはこれら地域の風景に対して無配慮にデザインされたものが目立つ。今回の提案は建物の保存と再生による長寿命化と同時に、地方の集落が持つ大きな課題である景観保全を目指した計画となっている。

●先導的な提案の内容について

 「超長期住宅」は構造的耐久性や将来の可変性など建物の性能についての取り組みが重要視されているが、最も重要なことは「壊されにくい家」という数値化出来ない性能ではないだろうか。今回の計画も60年以上住み続けられた家を壊したくないという建て主の強い思いが最初にある。何世代にも引き継がれる「壊したくない」という気持ちを建物に織り込んでいくためには、建物単体ではなく周辺地域の環境保全まで視野に入れた計画でなければならないのではないだろうか。例えば敷地の持つ可能性を読み取った計画をしても、風の流れは周辺地域の緑被率などで変動する。心地よい夏の風を失わないためには「現在の風景が維持され続ける」ことが条件となるのである。
 また町並みについても同じで、この建物だけでは町並みにはならない。地域の気流や景観は一つの建物だけでどうにか出来ることではないが、一つ一つの建物が意識していないと簡単に崩壊するシステムなのである。将来この町並みがどのように変わっていくのかは予測不能であるが、今回の取り組みが何かのきっかけになることを期待したい。本提案書が評価された理由はこのあたりにあるのではないだろうか。
本計画では築60年の民家を移築する
 次に建物単体の仕様について説明する。軒の深い既存の建物には空調設備がない時代でも快適に過ごすための知恵が蓄積されてある。南側の大きな開口や風通しのいい間取りは、夏の風を取り込むのに都合が良い。南側の広縁部分の屋根が一段下がっているのも、母屋と縁側とを構造的に分けることで容易に部分改修が出来るように配慮されたデザインだと考えると納得できる。また、60年前の構造躯体を見ると、今日住宅に使われている構造材(木材)と比較し大きな断面のものを丁寧に組上げていることがわかる。戦後の物のない時代に建てられた家であるが、既に200年という目標の約3分の1を達成しているのである。これらの家を壊さない技術の確立は「超長期住宅」の重要な課題の一つとなる。現況の真壁・差鴨居などの美しい構造を生かしたデザインをできる限り保存する意義は、次の世代に技術を語り継ぐ役割も背負っている。建物は一部昭和50年代に増築した部分を含むのだが、ここは閉鎖的な間取りで風通しも悪く傷みが激しい、既存部分との接合部分の漏水などもあり今回の工事では再利用しないこととした。なにより問題なのが、施主がこの増築部分に対し全く愛着を持っていないという点である。これでは建物が短期間で劣化するのも仕方がないことである。この時期に建てられた住宅は短命でそれらの多くが建替えられているのだが、工業化による大量生産と合理化が住宅の短命化に一役買っていることは否めない事実であろう。
 建物を別敷地に移築することは建築基準法上「新築」として扱うことになるため、現行の基準を全て満たした改修でなければならない。移築後の建物にはコンクリート基礎を設け、耐力壁のバランス等にも配慮する必要がある。これらの課題については既存の建物の意匠性を崩さない範囲で壁を配置することで解決する。これらの性能に関する部分の改修は法律を守るためだけで行なうわけではない。例えば、既存の床下部分は地面のすぐ上に土台があり、十分な床下空間が確保されていない。床下に設備機器があまり配置されない時代であれば、それで問題なかったであろうが、現在はメンテナンスや保全のため定期的に床下空間での作業が発生する。建物を長期間使用するには十分な床下空間を設けることが必要条件なのである。また、既存建物の一部には虫害の恐れのある部分も含まれるが、移築という手法はこれらをきちんと調査し、適切に補修出来る点では優れた改修方法だと言えよう。現在60年前の技術者に対し失礼にならない補修の方法を検討中である。
 古い民家の問題点である冬期間の快適性については、次世代省エネルギー基準の50%強化した断熱性能とする。現在最も厳しい次世代型省エネルギー基準だが、基準値ギリギリの性能では快適性は保てるが省エネにならないことが分かっているための措置である。今回は快適性と省エネの両立を目指すために II 地域レベルの性能確保が目標で、納まりなどについてはこれから検討する。
 暖房は基礎断熱により床下のコンクリートを蓄熱体とした全室暖房方式を採用する。木造住宅の蓄熱量が大幅に増加し、安定した温熱環境が実現できるこのシステムは、基礎コンクリートの中性化防止や構造躯体の内部結露防止対策など建物の長寿命化にも貢献する。断熱材には経年劣化が少なく、分別解体やリサイクルが可能なグラスウールを使用する予定である。新たに基礎を設けることで実施できる暖房方式といえよう。今回評価されたもう一つの項目である。
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