第1回 超長期住宅先導的モデル事業紹介

　建築時にスケルトン (躯体) とインフィル (設備・間仕切り等) とに明確に分離することのできる住宅を建築することは、不変であるべきもの (スケルトン) と、最新でありたいもの (インフィル) の融合体といえる「住宅」の正しい姿である、という認識の基に「MAST超長期分譲住宅先導的モデル」を提案する。
　また、住宅取得がゴールであると考えがちな日本の居住者に対して、「住宅という資産」の正しい管理手法を提示して実行し、経年後に正しく管理された「資産」の価値を正当に評価することは、住宅産業界のこれからの使命であると考える。これによって、住宅取得が資産の維持形成のスタートであることを居住者に認識いただくことができる。
　具体的には―

1. SI (スケルトン・インフィル) 住宅の本格導入
2. 分譲住宅販売システムのリメイク
3. リセールのための流通経路の確立とシステムの構築

―の3つの基本的な考え方を提案する。

1. SI (スケルトン・インフィル) 住宅の本格導入
・建設時にスケルトン (躯体) とインフィル (設備・間仕切り等) の境界線を設定して、明確に分離、施工し、経年後に追加・変更・更新する。
　耐力壁線の考え方を徹底導入し内壁・外壁それぞれの単純化された耐力壁線上の壁・床・屋根をスケルトンとして施工する。耐力壁線以外の内壁や、設備機器等は徹底して「後付け施工」する。後付けされたインフィルは、スケルトン部分に干渉することなく経年後の追加・変更・更新が可能となる。

	MAST分譲住宅建物構造図
	MAST分譲住宅建物外観

2. 分譲住宅販売システムのリメイク
・SI 住宅の採用による分譲住宅販売システムのリメイク
　SI 住宅の概念を徹底して、「スケルトン+標準インフィル」による住宅購入者それぞれにとって必要なものだけを選択できるシステムにして初期取得価格を抑える。ただし、選択可能なインフィルについては初期購入時のみの販売にとどまらず、恒常的に販売窓口を設定し、住宅取得後はいつの時点で購入しても原則的に価格が変わらないシステムを確立する。
　
3. リセールのための流通経路の確立とシステムの構築
・建設時からの住宅履歴情報の作成・掲示・保管・更新・使用 　住宅の建築時において各工程ごとに検査・チェックを行い、チェックリスト及び施工写真台帳を作成し、それを工事監理報告書として文書(データ)化して保存管理する。この文書は住宅購入者に「施工履歴書」として提示する。この記録は、メンテナンス・点検・インフィル販売の窓口に保存管理され、新たなメンテナンス・点検・リフォーム等の実施ごとに記録・更新される。
　またこの記録は、該当する住宅のリセール時には、当該物件の資産価値の保持情報として利用される。
・定期点検と一定の有償メンテナンスを条件とした「既存住宅買取制度」の活用
　土地と建物を別々に査定し買取りを行う。買取り後は、必要に応じてその時代のニーズにあったリフォームを施工して、市場に対してリセールを行う。
・エリア価値向上のためのホームオーナーアソシエーションの確立
　街並みなどの景観は、その住宅の価値形成に大きな影響を持つが、その景観向上のためにはコミュニティとしての努力が必要である。優良なコミュニティを形成するためには、管理組織 (ホームオーナーアソシエーション) によるエリア管理を実施して自立支援を行う。
　この管理組織の確立は、既存住宅買取制度とリンクさせて普及させるべく今後取組む。

　今後、スケルトンとインフィルを分離して正しく価値査定が可能となり、一般社会に広く認知されれば、居住者は保有資産である「住宅」の管理や更新について、より真剣に、積極的に取り組むことになると予測される。このような社会基盤をつくり、維持形成していくことが住宅業界に求められる使命であると考える。
　また、魅力的なオプショナルインフィルを恒常的に開発・販売することは、住宅業界全体に定量的なビジネスチャンスを作ることとなり、住宅購入者に対しても「住宅」の管理・更新についての意識向上に寄与するものと考える。